多摩人のふるさと、多摩川。この70km地点で、ようやく全長のうちの半分を超える。50㎞・60㎞地点へのアクセスを提供してきた青梅線も、
青梅駅からは4両編成となり30分間隔の運行、更にほぼ全線に渡り多摩川の渓谷を走ることになり、一気にローカル度を増す。
今回の70㎞地点は、青梅から6つ目の沢井駅から少し下った「楓橋」附近である。浅川や秋川などは既に分岐してしまい、ここにはもう
多摩川や日原川、山々から流れる沢の水しかない。河口とは違う多摩川の姿がそこにはあった―――。
寒風が時々山から吹いてくる。寒い。山地に入ってきただけのことはある。
沢井駅は島式ホームであり、列車の交換こそ出来るものの無人駅であり、これならば無賃乗車もらくらく…でなく、しっかりSuicaをタッチ
して出場。ロータリーに出て、多摩川へと下る。併走する国道へと下る道には、真っ赤に染まった楓が植えてあった。なかなか見事なものだ。
「楓橋」とはここから来ているのではないか、とも思った。3分ほどその道を歩くと青梅街道に到着。
地図を見る限り、この附近に楓橋がある筈なのだが、あるのは民家と…休憩所か庭園らしきものである。
とりあえず庭園(?)に入り、川の方へと向かってみる。人が意外と多くて驚いた。
少し進むと緑色の鉄橋が現れた。それが、待望の楓橋であった。
実は楓橋は、この庭園「澤乃井園」の中に存在する。沢井は、奥多摩の銘酒「澤乃井」の酒蔵があり、それに関連した庭園であるそうだ。
…最もこんなところで酒など飲んでいる暇はない。というより、飲めません(笑)
対岸に寺があり、楓橋はその連絡通路の役割を果たしているようであった。ともかく、これで70km地点は制覇か…。
と、楓橋は改修中…。工事用のシートに隠れて眺望はゼロ。橋からの撮影は無理。
この多摩川奇行には通行止めなどのしょっちゅう邪魔が入る。河口で通行止め、50km地点で進入禁止、そしてここは「橋改修中」である。
もう橋は諦めて、川岸へ至る道を探す。傍に丁度降りられるところがあったので降りてみた。
其処にあったのは、水面から顔を出した岩と、後は全てエメラルドグリーンの水が流れる景色だった。
上流にダムがあるからか、はたまた上流等で取れる石灰石の影響か、川底は見えなかった。岸から飛び石で行ける大岩があったので乗ってみた。
大岩の上でのんびりしていると、後ろから観光客らしきオバサマたちが岩に飛び乗ってきて、騒ぎ始めた。
「わァ、凄い自然が溢れているわねェ。」
自分勝手な感想だが、良い気持ちはしなかった。
ここでは、多摩川は景色を引き立たせる為だけにあるのであって、一種のアトラクションの様なものに感じた。
…そもそも、こんな状態「自然」ではない。人間によって造られた景色だ。
尤も、こんなことを言ってしまっては、人間に汚されていない部分など、もはや多摩川には存在しないのであるが。
…否、こうなる事もまた、多摩川にとっての「自然」だったのであろうか。
多摩川は流れ続ける。何も言わずに流れ続ける。
ここから沢井駅に戻り、更に上流、80km地点に向かう。