この紀行も、いよいよ下流域の終わりまで来てしまった。JR青梅線は、今まで河口附近からずっと付き添ってきた南武線に取って代わって、

中流域の奥多摩まで多摩川に沿う。特に青梅以西は山奥の町を結び、中々風光明媚な路線である。が、今回は青梅線ではなく支線(?)

五日市線「熊川」駅が、50km地点に最も近い。この五日市線も、終点附近では矢張り山に沿って走る。兎にも角にもこれからの探索は、

住宅街のような単調さは無いが、登山や北風吹きすさぶホームで20分以上待つことも覚悟しなくてはならないだろう。今回はそのようなことは

無かったのだが、これからやってくる『山中多摩川上流編』。気を引き締めねばならない。

 さて、新しくなった拝島駅。昔の階段しかない昭和チックな駅舎から、新品ピカピカの駅舎となった。だがここから出る下り電車は、皆山の方へ

向かうことには変わりは無い。特に見るところも無いので、さっさと五日市線に乗り込んだ。

 折角なので武蔵五日市駅まで寄り道をしてみた。この駅も、駅周辺の雰囲気はいかにも山の麓という感じがする―――が、駅舎は高架で

新しい。何れは、さらに奥の檜原村へも行ってみたいものだ。

 再び折り返し、熊川駅に着いた。駅舎はいたってシンプルで、ホームと無人の改札ぐらいしかない。駅前も家以外に八百屋があったくらいか。

とくに面白いものも無いので、駅から線路沿いの道を多摩川方面に向かって歩き出した。

 

 五日市線の土手の下の道を行く。ここもとりわけ面白いところは無かったが、強いて言えば線路沿いのコンクリート柵が所々崩れて、簡単に線路の

敷地内に入れた…位か。まだ10月というのに、この日は曇り空で既に肌寒い。歩いてもぜんぜん暖かくならなかった。そんな事を思っているうちに、

多摩川の堤が現れた。これで50km地点は制覇したと思った。

しかし、自分はすぐに異変に気づいた。何と、土手に立っているのに川があまり見えない!というアクシデントだ。土手と川の間には木や藪が鬱蒼と

茂っており、木と木の間に僅かに流れが見えるのみだ。しかし50kmポストは土手の上のサイクリングロードにしっかりあったので、50km地点制覇!!

…ということにしておこう。

 …いや、これでは後味が悪すぎる。このヘンテコ紀行の本来の目的は、多摩川の様々な姿を見ることであって、10kmおきに訪れるというのは

あくまでも目安に過ぎない。確かに多摩川の50km地点(キロポスト)は制覇したが、50km地点の川は見ていない。全く本末転倒である。

川を見ないと、これは制覇したとは言えないのではないか―――。

その時はそこまで考えなかったが、とりあえず川が見えるポイントを探した。見たところ下流方面に進んでも、川は見えなさそうである。正面の林に

突っ込むことは、到底考えられなかった。幸いにも林は五日市線の鉄橋で切れて、橋の向こう側は背の低い草の生える荒地のようだった。が、しかし、

いざ鉄橋を潜りそこへ行って見ると「進入禁止。進入したものは通報します。」と書いてある看板があるではないかっ!!

見えるのだ。この看板の先の道が、緩やかなカーブを描き河原へ向かっていくのを。しかしその河原は、草で見えない。

通報。常識人であれば絶対にされたくない行為だろう。…例えこれより奥に入っても実際に通報される確率はかなり低いが、この先に見せたくないもの

でもあるのだろうか。土地の所有者は。全く。

 とてもチキンな自分は看板を超えられずに引き返した。鉄橋が唸り始めたと思ったら、すぐに6両編成の電車が轟音を撒き散らし走っていった。

 ここは…また来よう。同じようなシチュエーションで結局制覇できなかった0km地点と共に。

 

 もやもやした気分のまま熊川駅より電車に乗り込み、これより更に上流へ向かう。

 

50km地点(Yahoo!地図)

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