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よく晴れた昼下がり、私は東急東横線に揺られていた。東急は西武と違い、各駅停車もいつも混んでいて本数も多い。格差を感じたところで

10両の電車は多摩川駅に着いた。ここから東横線は多摩川を渡り横浜方面へと向かうのだが、この駅にはもう一つ東急多摩川線という

ローカルな路線が走っているのだ。私はそれに乗り込んで、蒲田方面へと向かった。目的地は「武蔵新田」駅。ここが多摩川河口より東京側の

10km地点への最寄り駅である。多摩川駅よりおよそ10分で武蔵新田駅に到着、見る限りでは普通の住宅街である。もちろん地価は相当に

高いのであろうが。駅にあった地図を確認し、私は多摩川(駅名ではない)方面へと向かった。最初の100m位はこぢんまりとした商店街が続く

のだが、すぐに住宅街となる。何回か道を曲がるうちに、高層マンションが見えてきた。多摩川沿いにはマンションがとても多い。それを目印に

更に進むと、多摩川の土手が見えてきた。10kmポストはすぐ傍にあった。

 

 9月も中旬辺りから涼しくなってきた。この日もとても良く晴れていて空が高く、秋が来たことを実感させた。さて辺りを見回すと…、こちら側

(東京側)には高層マンションが沢山立っているのだが、向こう側(神奈川側)は特に高い建物は見つからない。ただし川幅はかなり広く、

まだ河口からさほど離れていないのだなということが分かる。まだ川の水も淡水と海水が混ざった汽水であり、流れもむしろ逆流しているよう

にも見えた。上流方向には武蔵小杉の高層ビルが見えた。

 

 しばらくこの辺りをうろついて居たが、時間が押し迫ってきているのでさっさと次の場所へ行くことにする。と、言ってもまた「武蔵新田」駅へと

戻るわけではない。神奈川側には南武線という、ありがたい路線が走っている。この南武線、川崎よりほとんど多摩川と平行して、河口より40km

付近の立川まで走ってくれるのだ。ここから何回かは、南武線にお世話になりそうである。話を戻して、そしてここの対岸には「平間」という駅がある。

その対岸へ行くには、ここからは「ガス橋」なるものを渡るのが一番近いという。「ガス橋」というものは、その名の通りガスを神奈川から東京へと送って

いる、今も東京都民のライフラインとして活躍している。上流方面へと少し進むと、交差点が見えてくる。ここより左に進むとガス橋である。歩道も整備

されていて、渡っていて気持ちが良い。橋の上から多摩川を見下ろすと、河口に比べてずいぶん川幅が狭まったことを実感する。200m程であろうか、

しかし狭まったといってもそれでもかなり川幅はある。晴れてはいたが、遥か西の山々は見えなかった。

 

実際はあの方角ではないのだが、この川をここから約130km先、あの山の向こうの向こう、更に向こうにこの川の源流があるのだ。

気が遠くなりそうだが、いつかはあの遥か彼方で私は言い表せない達成感に包まれていることであろう。そうなっていたい。その為には今、たとえ靴ずれを

起こしても取材を続けていかなくてはならない。河口と源流だけならば比較的簡単だろう。しかしそれでは多摩川の真実は知ることが出来ない。

果てしなく平地を流れ、山に分け入り、清流となって、最初の一滴となる。その過程を知りたいのだ。例えこの138kmを制しても、本当に制したとは

言い切れないだろう、が、それでも少しでもこの川について知れることは、私にとって大切なこととなるであろう。

 

 川を渡りきると、また交差点がある。直進し、10分程で歩いたであろうか。平間駅。南武線、川崎より4駅目、立川から20駅目の住宅街の中の駅である。

ここから南武線で「久地」駅まで向かい、次の20km地点を目指す。私は既に疲れていた。

 

10km地点(Yahoo地図

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